エッセイ 小さな恐怖たち

      2018/07/07

唯一平気だった、トカゲエピソードがある。
 

小さな恐怖たち

 
「これはね、二匹いると、家中のゴキブリみんな食べちゃうんだよ」
もうすぐ法的に義父となる、夫の父がそう言っていたのはアシダカグモのことだ。
ゴキブリも速いけど、アシダカはもっと速く動けるからね、捕まえちゃうんだよ。と。
夫の実家の壁に、ぴったりと張り付いて動かないその姿に、虫が苦手なわたしは凍りついた。
でもゴキブリを食べてくれるならいいのか、と心を落ち着ける。

わたしは虫という虫がとにかくダメだ。
夫などは田舎の育ちなので慣れたもので
「こっちが何もしなければ何もしてこないよ」
など呑気である。
わたしに言わせると、何もしてないかどうかの判断は虫側のジャッジで、こっちが何もしていないつもりでも、虫としては許せないことだってあるかもしれない。
そう考えると、虫を見たら固まって息を呑むしかできないのだ。

しかし、夫の素晴らしい点は、怖がるわたしに「へーきへーき」などと言って、その場を放置しない点だ。
虫を退治するなり、逃すなりして、わたしが落ち着くようにしてくれる。

しかしそんなわけで、わたしは虫のいるところに滞在することはとてもではないができない。
田舎のロッジとか憧れないこともないが、虫がいつどこに現れるかわからないと思うともう無理である。
短期滞在でさえそう思うのだから、住むなんて絶対に無理だろう。
以前のエッセイにも都会から離れたくない旨を書いたが、虫もひとつの要因である。
虫にとどまらず、トカゲの類もダメなのだ。

しかし、そんなわたしでも、唯一平気だった、トカゲエピソードがある。
バリ島の山あいであるウブドというエリアに泊まった時、マッサージを受けたら建物の梁に二匹のトカゲが現れたのだ。
マッサージの気持ち良さからなのか、普段のわたしなら「ひええ!」となるところ
「かわいい…」
とぼんやり思ったのだ。

それ以来、そのリゾートで見かけるトカゲは全部可愛く見えた。
案外そんなもんなのだ。

わたしにもいつか、アシダカグモも頼もしく感じる日が来るのだろうか。

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