エッセイ うみほたるにバイクで連れて行ってくれた人の話

      2018/06/29

車のあいだをビュンビュンと抜ける。
あれがわたしの人生最初で最後のバイクデートだったのかもしれない。

うみほたるにバイクで連れて行ってくれた人の話

そのひとは身長がとても高くて180くらいあった。
目がとても優しくて、建築家をしていた。

バイクが趣味で、1回目のデートでわたしはバイクに乗ってみたいと言った。
「え、ほんとうに?」
え、ほんとうに? 嬉しいな。
多分、こういう人が珍しかったのか、彼は喜んだ。

バイクデート当日、彼はわたしに合いそうなヘルメットや、ネックウォーマーを用意してくれていた。
それをかぶると、その人の気配がした。
その瞬間に、「あ、この人じゃないな」という動物的勘が働いた。

でもバイクデート自体は楽しみたかったし、そのまま、バイクに乗り込んだ。
バイクは素人目に見ても高そうだったし、稼いでいる建築家のようだったからそこまでは驚かなかった。

人生はじめてのバイクは、爽快だった。
車と車のあいだをすれすれで抜けていって、スリル満点だった。
すごーい!と自然と声が漏れる。
でも風の轟音で会話ができないから、なんだか不思議な気分だった。
人のお腹に抱きつくようにしているのに、わたしは一人なんだなあという、いい意味での孤独感があった。

うみほたるに伸びるまっすぐなトンネルはオレンジ色の照明で彩られていた。
きっとこの人は生涯を共にする人ではないな、でも、楽しいなと考えながら、そのなかを爆走する。

うみほたるについて、ソフトクリームをご馳走になりながらバイクの感想を聞かれた。
わたしは感じた興奮をそのまま伝えた。
彼も嬉しそうだった。
このソフトクリームを食べ終わったら、デートももう後半になってしまうな、と思ったのを覚えている。
潮で独特に汚れたガラス窓越しに見るまっすぐな道路が延々と伸びていた。

わたしの家の前でわたしを下ろすと、その人はまたヘルメットを被って自宅へとバイクで帰った。
そこから次、もう会うことはなかったけど、わたしはあのバイクデートを忘れることはないだろう。

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