エッセイ 運動が1ミリ得意になったという発見の話

      2018/06/12

あれ、ついていける…!
あれ、できる…!
という感覚を、運動で覚えたのは人生で初めてだった。

1週間くらい前に、エアロバイクを集団で漕ぐグループサイクルというエクササイズを紹介した。


グループサイクル効果口コミ、こりゃ痩せるよ! | 男子を置いて、ビジネスクラス

たくさんの方が読んでくださって嬉しかった。


初めてグループサイクルに参加した時は本当にしんどくて、お尻も痛くて、汗だくで。
翌日は筋肉痛でたいへんだった。
さわやかなスポーツマンといった感じのインストラクターさんが
「続けてたらなれるからね!」
と、CMみたいな白い歯を見せて言うので、続けたいなという気になった。

実はその前日、わたしはあるグループサイクルに誘われていた。
誘ってくれたのはわたしに筋トレマシンの使い方を教えてくれたインストラクターさんだ。
かっこよくはない。
というのが、わたしの彼への第一印象だった。
ちょっと褐色の肌の彼は、わたしがグループサイクルに興味ありと聞くと
「火曜日の二時に僕がやっているクラスに来てくださいよ」
というので、頷いてしまった。

かくして、わたしの二度目のグループサイクルはそのかっこよくない人のクラスにすることにした。
開始30分前になると、グループサイクル専用の部屋に入ることができる。
わたしが部屋の前に向かうと、そこには誰もいなかった。

すかさず夫に
「かっこよくないおのクラス、誰もいないんだけど!」
とメッセージを送ると、丁度お昼休憩だった夫から
「かっこよくないお笑」
と返ってきた。
「どうしよう! ふたりきりじゃグループサイクルじゃないじゃん!」
「タイマンサイクルだね」
と、やり取りをして焦った。たいまんは辛い。
グループサイクルは照明を落として盛り上がれるようにミラーボールがあるのだ。
クラブみたいな感じを想像してほしい。
なぜそんなところでミラーボールのした、かっこよくないおとふたりきりでエアロバイクを汗だくでこがなきゃならないんだ。

クラス開始10分前。
ついにかっこよくないおがやって来てしまった。
わたししかその場にはいない。
「お、やります? ありがとうございます」
彼はわたしに嬉しそうな笑顔を見せた。
かっこよくないおなんて呼び方をしているが、彼はめちゃくちゃいい人である。

わたしの筋トレのフォームを時々見て
「初めての時よりよくなってます! 初心者にしてはうまい!」
といってくれたり、参加したい初めてのクラスの先生に話を通してくれたりした。

そんな、かっこよくないおのクラスに生徒が集まらない。
気丈にも音楽をかけてにこにこしているないお。
誰かきてあげてほしい…という、ないおの味方としての意識がわたしに芽生えたころ、奇跡的に人があと2人来た。

恐怖のたいまんサイクルを逃れてホッとしたのもつかの間、いよいよクラスが始まる。
ないおがマイクで
「さー、みなさん、いい汗かいていきましょう!」
と「皆さん」と呼ぶには少なすぎるメンバーに元気に声をかける。
頑張れ、ないお。

グループサイクルはバイクの負荷を各々が調節可能で、インストラクターの指示で重くしたり軽くしたりすることで、あたかも山を上ったり下ったりしているような感覚になるのだ。
実際、これから2つの山を越えますよー、と指示されたりするので、公式の形容なのだろう。

いくつかの山をないおの指示で超えてきつくなって来た時だった。

「あれ…? まだ漕げる」

わたしは前回のときより、自分になんらかのスタミナみたいなものが付いていることを感じた。
わたしは今まで、運動でこんな感覚になったことはなかった。
なぜかというと、運動する様を母に笑われていたことがあったから、楽しく続けたためしがなかったのだ。
「かわいいー! 必死!」
と母は、笑った。
必死にならないと運動できないことを間接的に笑われていた。

「きついけど、漕げる…!」

わたしは嬉しくなっていた。
汗がたくさん出る。
ないおは一生懸命盛り上げている。
足に乳酸独特のいやな感じがしても、漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ。

気がつくと、ないおのクラスは終了していた。
出口に向かうと、そこで彼が待ち構えていて、少なすぎるうえに体力がなくてヘトヘトの3人のクルーに両手ハイタッチを笑顔で迫っている。
そういうところがいけないんだよ、と思いつつ、ないおの純粋な笑顔を見ているといじらしい。
だいたい、自由参加でぎりぎり集まった3人なんて、来週にもくる保証はない。
ないおのクラスは風前の灯火だ。

シャワーを浴びながらお腹を見ると、ウエストが明らかにキュッとなっていた。
また来週も、ないおのクラスに参加しようと思った。




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